LOGIN「……あ、あはは。ごめん、色々とバタバタしてて……」
あまりの豹変ぶりに引きながらも、ユウヤは頬を掻きながら苦笑いするしかなかった。
『もう、本当に心配したんだから。こっちではあなたの活躍を、ちゃんと見てるんだからね! でも、声が聞けるのはやっぱり別格ねっ♪』
女神様の浮き足立ったような喜びが伝わってきて、ユウヤの心に微かな罪悪感と、それ以上の妙な親近感が湧き上がってくる。
「忙しいんじゃ……?」
ユウヤは気まずそうに問いかけた。先ほどの怒声を聞いた後では、どうしても仕事の邪魔をしているような気がしてならない。
「あ、良いの。良いの大丈夫よ♪」
女神様の声は弾むように明るく、先ほどの殺伐とした雰囲気は微塵も感じられない。
「忙しいのに、すみません」
「それで、そっちは……どんな感じなの? 楽しくやってる?」
「お陰様で。ミリアたちと一緒に、無事に生活できてますよ。色々と驚くことも多いですけど」
「へぇ~良かったっ♪ だったら、遊びに行っちゃおうかな~」
「遊びに来れるんですか? 神様の世界から……」
そんなことが可能なのかと、ユウヤが驚きに目を見開いた時だった。
「そりゃ……私が創った世界だよ?」
耳元で、吐息を感じるほど近くから、鈴を転がすような声が聞こえた。
「え?」
背筋を氷の粒が走るような感覚に襲われ、ユウヤは慌てて振り向いた。
そこには、いつの間にか一人の少女が立っていた。月明かりを透かしたような神秘的な銀髪は、肩の下でふわりとウェーブを描いて揺れている。清楚な白いワンピースに身を包み、悪戯っぽく微笑むその姿は、この世のものとは思えないほど美しい。
透き通るような肌と、宝石のように輝く瞳。神々しさというよりも、どこか親しみやすさを感じさせる圧倒的な美少女が、ベッドのすぐ傍で小首を傾げていた。
「ユウヤ様~久しぶりです♪ それにサーシャ様もお久しぶりです♪ お二人はいつも仲が良いのですね。次は、わたしの番ですよ~♡」 シャルは屈託のない笑顔で、当然のようにサーシャに声をかけた。「分かりましたよっ。シャルちゃん」 サーシャもまた、慣れ親しんだ様子で明るく応じる。「約束ですよぅ~」 シャルは満足げに頷くと、そのまま楽しげにリビングを出ていった。 残されたユウヤは、あまりの出来事に思考が停止し、目を見開いたまま固まってしまった。(ん? え? どういう事? シャルもサーシャと知り合いだったの?) 先ほどまでミリアたちに説明が必要だとばかり思っていたが、シャルは驚くどころか、最初からサーシャがここに居ることを知っていたかのようだった。「ねえ、サーシャ……どうしてシャルが君を知ってるんだ?」 ユウヤが驚きを隠せずに問いかけると、サーシャは抱きついた腕にさらに力を込め、楽しそうにクスクスと笑った。「ふふっ、そんなに驚かなくてもいいじゃない。ね、ユウヤ。それよりお茶、まだかな?」 サーシャはユウヤの困惑をよそに、運ばれてくるお茶を待ちわびるようにテーブルを見つめている。 ユウヤは混乱する頭を抱えながら、この自由奔放な女神と、彼女を当たり前のように受け入れたシャルの関係について、激しい疑問を抱かずにはいられなかった。「え? えっと……サーシャは、シャルと知り合いだったの?」 ユウヤが困惑しながら尋ねると、サーシャは首をかしげて銀髪をさらりと揺らした。「会うのは初めてかな~」「え? 知り合いっぽかったっていうか……すごく親しい仲に見えたけど」 シャルのあの態度は、初対面の人間に向けるものではなかった。まるでもう何度も会っているような、家族に近い親愛の情さえ感じられたのだ。「だから~わたしは、わたしで、それ以外でも、それ以上でも、それ以下でも無いって事だよ」「ん? 意味が分からないんだけど?」
「えへへ、だって友達でしょ?」 彼女は上目遣いでケロリと言ってのけるが、友達同士でこんなことをするだろうか。いや、絶対にしないはずだ。ユウヤは混乱の極致に叩き込まれ、ベッドの上で固まってしまった。 女神様なのに、あまりに無防備で、あまりに積極的すぎる。「え!? 友達同士でキスはしないでしょ」 ユウヤが顔を真っ赤にしながら抗議すると、サーシャは不満げに頬を膨らませた。「えー! だって、久し振りに会えたんだよ? つい、嬉しくてさ〜。えへへ……♪」 彼女は照れ隠しのように舌をぺろっと出し、悪戯っぽく笑う。その奔放な振る舞いに、ユウヤは頭を抱えたくなった。「サーシャって、こんなキャラ……だっけ? もっとお淑やかだったような……」 記憶を辿ってみるが、最初に出会った時もどこか抜けているというか、威厳よりも親しみやすさが勝っていた気がする。そもそも、フレンドリーな感じだったからこそ、ユウヤも「友達になってほしい」なんて口にできたのだ。「ん〜、普段はこんな感じだけど? それに友達でしょ? 女神としてここに居る訳じゃないし。いつも女神様をやってるのって、肩が凝るっていうか、本当に疲れるんだよねっ!」 サーシャは大きく伸びをしながら、ベッドの上で足をパタパタと動かした。 どうやら、他の信徒や住人たちの前では「女神」という仮面を被って、お淑やかに振る舞っているらしい。ユウヤの前でだけは、その重たい役職を脱ぎ捨てて、一人の少女……サーシャとして接してくれている。「いつもは女神らしくしてるんだね。俺の時は始めから、そんな感じだったけど……」「それはユウヤが、最初からわたしを『神様』じゃなくて『わたし』として見てくれたからだよ」 サーシャは少しだけ真面目な顔になり、透き通るような瞳でユウヤをじっと見つめた。その眼差しは優しく、そして深い信頼がこもっている。「……まあ良いか。サーシャがここで過ごしやす
「……あ、あはは。ごめん、色々とバタバタしてて……」 あまりの豹変ぶりに引きながらも、ユウヤは頬を掻きながら苦笑いするしかなかった。『もう、本当に心配したんだから。こっちではあなたの活躍を、ちゃんと見てるんだからね! でも、声が聞けるのはやっぱり別格ねっ♪』 女神様の浮き足立ったような喜びが伝わってきて、ユウヤの心に微かな罪悪感と、それ以上の妙な親近感が湧き上がってくる。「忙しいんじゃ……?」 ユウヤは気まずそうに問いかけた。先ほどの怒声を聞いた後では、どうしても仕事の邪魔をしているような気がしてならない。「あ、良いの。良いの大丈夫よ♪」 女神様の声は弾むように明るく、先ほどの殺伐とした雰囲気は微塵も感じられない。「忙しいのに、すみません」「それで、そっちは……どんな感じなの? 楽しくやってる?」「お陰様で。ミリアたちと一緒に、無事に生活できてますよ。色々と驚くことも多いですけど」「へぇ~良かったっ♪ だったら、遊びに行っちゃおうかな~」「遊びに来れるんですか? 神様の世界から……」 そんなことが可能なのかと、ユウヤが驚きに目を見開いた時だった。「そりゃ……私が創った世界だよ?」 耳元で、吐息を感じるほど近くから、鈴を転がすような声が聞こえた。「え?」 背筋を氷の粒が走るような感覚に襲われ、ユウヤは慌てて振り向いた。 そこには、いつの間にか一人の少女が立っていた。月明かりを透かしたような神秘的な銀髪は、肩の下でふわりとウェーブを描いて揺れている。清楚な白いワンピースに身を包み、悪戯っぽく微笑むその姿は、この世のものとは思えないほど美しい。 透き通るような肌と、宝石のように輝く瞳。神々しさというよりも、どこか親しみやすさを感じさせる圧倒的な美少女が、ベッドのすぐ傍で小首を傾げていた。
「あ……これ、リビングでやることじゃないわ。ヤバイ、外に出よ……」 黒炎が放つ圧倒的な破壊の気配に、ユウヤは冷や汗を流しながら立ち上がった。このままでは愛着のある家具やカーテンが灰になりかねない。「ちょっと庭に出て、剣の素振りでもしてくるね」「ユウヤ様……もぉ……」 ミリアは呆れたように肩を落としつつも、ユウヤの無鉄砲な行動に溜息をついた。その視線の先では、先ほどの護衛たちが再び戦慄し、慌てて道を開けていた。 ユウヤは炎を吹き上げる剣を慎重に掲げたまま、足早に庭へと向かった。 夜の冷気が漂う庭に出ると、暗闇の中で黒炎はいっそう禍々しく、そして美しく揺らめいている。軽く一振りするだけで、風を斬る音の代わりに「ゴォッ」という低い燃焼音が響き、空気が熱で歪んだ。(……これ、ただの属性剣どころじゃないな。火龍の力は、想像以上だな) ユウヤは柄から伝わる力強い鼓動を感じながら、夜の静寂の中でゆっくりと剣を構え直した。 夜の静寂に包まれた庭で、ユウヤは「収納」から木製の人型の的を取り出し、地面に据えた。手の中の剣は、依然としてどろりとした黒炎を纏い、闇を不気味に侵食していた。シュ…… 鋭く横一文字に振り抜くと、手応えは驚くほど軽かった。 斜めに断ち切られた的は、断面から溢れ出した黒炎に一瞬で包まれ、音もなく崩れ落ちて灰へと変わる。これだけの火力がありながら、不思議と周囲の地面には焦げ跡一つ付かず、ユウヤ自身も熱さを感じなかった。(……なるほど、対象物だけに干渉してるのか) ユウヤは再び新しい的を出し、今度は切っ先で軽く突いた。 刹那、接触した一点から猛烈な勢いで黒炎が広がり、生き物のように的を呑み込んでいく。数秒もしないうちに、そこには何事もなかったかのように夜の闇が戻っていた。「おおぉ。これ、面白いかも……」
(おおぉ! 大成功じゃん) ユウヤは満足げに息を吐き、張り詰めていた殺気を霧散させた。ドーム状の結界を解くと、そこには驚きに目を見開いたままの護衛が立っていた。 張り詰めていた結界が霧散し、密度を増していた空気がふわりと解けていく。ユウヤは肩の力を抜いてふぅ、と静かに息を吐き出し、先ほどまでの険しい表情を和らげた。「ありがと。それで、どうだった?」 問いかけられた女性の護衛は、呆然とした様子で自身の掌に残る重みを確かめていた。「えっと……一瞬、背筋が凍りつくような鋭い殺意を感じましたが、それは本当に、瞬きをする間の一瞬のことでした。次の瞬間には、まるで春の陽だまりの中にいるような、温かくも力強い何かに優しく守られているような……そんな不思議な感覚でしたわ」 彼女は、刀身に微かな熱の余韻を宿して淡く輝くナイフをじっと見つめ、信じられないといった様子で、感嘆の吐息とともに言葉を漏らした。「大成功だね」 確かな手応えを得たユウヤの口元に、満足げな笑みが浮かぶ。「おめでとうございます、ユウヤ様。歴史に刻まれるような、このような至宝が誕生する瞬間に立ち会うことができて、この上ない光栄に存じます」 彼女は背筋を正し、深く、敬意を込めて一礼した。その真剣な眼差しには、単なる職務上の称賛を超えた、心からの畏敬の念が宿っている。「あ、ありがと。無理な頼みを引き受けてくれて、本当に助かったよ」 真っ直ぐな称賛と敬意を向けられ、ユウヤは少し照れくさそうに指先で頬を掻いた。「お役に立てて、本当に、本当に嬉しいですっ!」 先ほどまでの決死の表情が嘘のように、彼女は頬を林檎のように赤く上気させ、春の陽光のような晴れやかな笑顔を咲かせた。弾むようなその声と、心底嬉しそうに身体を揺らす姿を見て、ユウヤの胸中にも自然と柔らかな灯がともるような、穏やかな安らぎが広がっていった。「俺も訓練するなら、いつでも付き合うよ」「はい。ぜひ、お願いします!」 彼女は弾んだ声で応じ、大切
薬の効果もあり、護衛たちの顔にはようやく安堵の色が戻り始めていた。彼らは互いに顔を見合わせ、信じられないものを見たという風に戦慄しながらも、無意識にユウヤから距離を取っている。(……でも、殺気に気付いて即座に動けたんだから、やっぱり凄い人たちなんだよな) ユウヤは心の中で彼らをフォローした。普通の人間なら気付く間もなく意識を刈り取られていたはずだ。 それにしても……と、ユウヤは自分の手のひらを見つめた。殺気だけでこれほどまでに相手を無力化できるとは思わなかった。もし「威圧」や「威厳」といったスキルを意図的に使いこなせるようになれば、無駄な戦闘を避け、睨むだけで争いを収めることもできるかもしれない。(威圧と威厳……。いつか覚えられるかなぁ) そんなことを考えていると、ようやく落ち着きを取り戻した女性の護衛が、背筋を正して深々と頭を下げてきた。「失礼いたしました、ユウヤ様。……そして、このナイフ。先ほどの輝き、確かに私を『何か』から守ってくださいました。このような素晴らしい品をミリア様に……。護衛として、心より感謝申し上げます」 彼女の言葉に、ミリアも再び自分の手元のナイフに視線を落とした。深く、静かに輝く青い魔石は、先ほどまでの激動が嘘のように、今はただ優しく主人の手を照らしている。「……ユウヤ様。このナイフ、一生大切にいたしますわ。わたくしを守ろうとしてくださる、あなたのそのお気持ちと一緒に」 ミリアはナイフを愛おしそうに胸に抱き寄せ、春の陽だまりのような微笑みをユウヤに向けた。 女性の護衛が、さきほどからずっと俺のことを見つめてきている。その視線は射抜くように鋭く、それでいてどこか熱を帯びているようにも見えて……。なに? やっぱり、得体の知れない危険人物だと思われて警戒されているんだろうか。「えっと……なに?」 耐えかねて尋ねると、彼女はハッとした







